フェニックスバイオは肝臓に着目して、革新的な技術・サービスを提供しています。
ヒトが薬を飲んだとき、その成分は肝臓によって形を変えて体の中で作用します。そして身体を巡った後で再び肝臓に戻り代謝されて体外に排出されます。
肝臓の働きは生活環境が異なるヒトと動物では、その働きも異なります。
PXBマウス
PXBマウスは、マウス肝臓に含まれる肝細胞の70%以上がヒト肝細胞で置換されたマウスとして日本、米国、カナダ、欧州、中国等で商標登録(PXBマウス及びPXB-Mouse)されています。
PXBマウスの特徴は、マウスの生命維持に不可欠な器官の一つである肝臓において、異種であるヒトの肝細胞がマウス本来の肝細胞と70%以上入れ替わった状態を維持しつつ、実験動物として利用可能であることです。PXBマウスの肝臓の中にあるヒト肝細胞は、ヒト体内にある状態に極めて近いことを裏付けるデータが得られていますので、PXBマウスを利用することによって、ヒト肝細胞に関連する様々な実験を、同じドナーの肝細胞を持つPXBマウスを用いて繰り返し実施することが可能です。
当社は、マウスの肝臓の70%以上がヒトの肝細胞に置き換えられた「PXBマウス=ヒト肝細胞キメラマウス」を作製する技術を持ち、このヒト肝細胞キメラマウス(製品名:PXBマウス)を用いて、医薬品開発における創薬過程のうち、主に前臨床過程において様々なサービスを展開しています。
医薬品の安全性、有効性を確保するためには、臨床試験においてヒトでの代謝を確認することが必要ですが、「PXBマウス」では薬を代謝するのに重要な臓器である肝臓の大部分がヒト肝細胞に置き換わっていることから、ヒトの代謝を予測することができると考えられ、当社は製薬会社に対し「PXBマウス」を用いた医薬候補物質の投与の受託試験サービスおよび製品を提供しています。
PXB-cells
新薬候補の探索や最適化の過程では、短時間で大量の候補物質を評価するために、ロボットを用いた自動的解析手法であるin vitro ハイスループットスクリーニングが採用されています。このスクリーニングでは、主にヒト由来の細胞が用いられており、特に代謝に関連する評価ではヒト肝細胞が一般的に使用されています。しかし、供給をドナーに依存する新鮮ヒト肝細胞は、元々の入手量自体が潤沢ではない上に供給時期も不定期であり、さらに、多くのケースにおいて利便性を優先し冷凍保管されています。一旦冷凍されたヒト肝細胞は、細胞の機能がある程度低下しますが、創薬研究者は、凍結ヒト肝細胞を用いた評価に頼らざるを得ない状況にあります。これに対し、当社が提供するPXB-cellsは、PXBマウスから随時灌流採取した肝細胞を、非凍結のまま新鮮な状態で提供が可能です。PXB-cellsを利用することにより、創薬研究者は、肝細胞本来の機能を保持した状態で実験・評価することが可能となり、また、PXBマウスの安定生産を背景に、創薬研究者の都合に応じて実験を実施することが可能です。
PXBマウスの肝臓から、コラゲナーゼ灌流法によりヒト肝細胞を分離すると、約1.5×108個のヒト肝細胞が得られます。このヒト肝細胞の生存率は約85%、マウス肝細胞の混入率は5%程度です。このようにして得られたヒト肝細胞は、新鮮であるためシャーレへの接着率は非常に高く、新鮮ヒト肝細胞としての高い薬物代謝能を持ち、B型肝炎ウイルスの長期培養系としても有効です。
事業モデル
当社は、マウスの肝臓の70%以上がヒトの肝細胞に置き換えられた「PXBマウス=ヒト肝細胞キメラマウス」を作製する技術を持ち、このヒト肝細胞キメラマウス(製品名:PXBマウス)を用いて、医薬品開発における創薬過程のうち、主に前臨床過程において様々なサービス・製品を展開しております。
医薬品の安全性、有効性を確保するためには、臨床試験においてヒトでの代謝を確認することが必要ですが、「PXBマウス」では薬を代謝するのに重要な臓器である肝臓の大部分がヒト肝細胞に置き換わっていることから、ヒトの代謝を予測することができると考えられ、当社は製薬会社や研究機関に対し「PXBマウス」を用いた医薬候補物質の投与の受託試験サービスの提供や、PXBマウスをはじめ新鮮肝細胞「PXB-cells」などの製品を提供しています。
新薬の開発工程における当社の事業領域
当社の新薬開発工程のうち前臨床工程を事業領域としています。
現在、前臨床工程では、様々な動物などを用いて新薬の有効性や安全性を検証していますが、ヒトとの種差があることから依然として予測精度に課題を抱えています。
当社製品・サービスは、これらの課題を解決するものとして期待されています。
次世代医薬品開発での用途拡大
「in vitro」分野への事業拡大
Primary Hepatocytes(初代ヒト肝細胞)は、細胞分離技術、凍結保存法、培養システムの進歩により、その機能性が向上し、新薬開発に不可欠なツールとなっています。世界のPrimary Hepatocytesの市場規模は、2025年には2億7,290万米ドルとなり、今後10年間の推定CAGR(年間平均成長率)は6.6%であり、2032年末までに4億2,820万米ドルに急増すると予測されています。※
当社は、凍結初代ヒト肝細胞からヒト肝細胞キメラマウス(PXBマウス)を作製する独自技術を有しており、このヒト肝細胞キメラマウスの体内で増幅させたヒト肝細胞を効率よく回収する方法を確立することによって、機能性の高いヒト肝細胞を長期に亘り安定供給することを可能としました。この独自技術により得られる高機能なヒト肝細胞を用いて様々な事業展開を行っています。
①TOPPANホールディングスとの業務提携
TOPPANホールディングス株式会社が開発した3D細胞培養技術「invivoid」を用いて体外で作製した「人工三次元肝臓組織」の試供に向けて、同社と業務提携契約を締結いたしました。
TOPPANホールディングスが、「invivoid」テクノロジーを用いて、当社が供給する「PXB-cells」によって作製した肝臓モデルは、生体に近い性質を有する人工組織であるため、肝臓に対する安全性試験を必要とする創薬研究、機能性食品開発など幅広い用途での活用が期待されます。
②凍結ヒト肝細胞「PXB-cells Cryo」販売開始
新製品「PXB-cells Cryo」は、ヒト肝細胞キメラマウスから採取した新鮮なヒト肝細胞を当社独自の方法で機能を損ねることなく凍結した新たな供給形態の製品です。この凍結ヒト肝細胞は新鮮ヒト肝細胞「PXB-cells」と比較しても、肝細胞の様々な機能も高く維持されています。
機能面の他、凍結することで長期保存が可能となり、一定数をまとめてご購入いただくことで海外輸送時のコスト軽減が図れること、また、ストックされた凍結ヒト肝細胞を研究者の方のご都合にあわせて試験に使用できるため、従来の新鮮PXB-cellsとあわせて創薬研究者の方の多様な用途に対応できるものと考えています。
※Persistence Market Research社「Primary Hepatocytes Market: Global Industry Analysis, Size, Share, Growth, Trends, and Forecast, 2025–2032」から引用
[(ヒト肝細胞)キメラマウス]
キメラとは、同一の個体内に異なる遺伝情報を持つ個体であります。当社のキメラマウス(当社製品名:PXBマウス)はマウスにヒトの肝細胞を移植し、マウス肝臓がヒトの肝細胞に置換していることから、マウスとヒトの遺伝情報を有しております。
[前臨床、臨床試験]
臨床試験とは、新薬候補化合物の有効性や安全性を実際にヒトに投与し確認することであり、前臨床(または非臨床)とは、臨床試験に先立ち、動物等を用いてこれらを確認することであります。
[代謝]生命の維持のために生物が行う、外界から取り入れた様々な物質を素材として行う一連の合成や化学反応のことであります。
[酵素的酸化反応]
生物における代謝反応の一つで、酸素原子を付加することを補助する酵素により、酸素分子を物質と結合させる反応のことであります。
[抱合反応]
生物における代謝反応の一つで、薬物などの異物や体内由来の物質(ホルモン、胆汁酸、ビリルビンなど)に他の親水性分子(硫酸、グルクロン酸、グルタチオンなど)が付加される反応であります。
[加水分解]
ある一つの物質が二つの物質に分解する際、水を必要とする反応のことをいいます。
[体内動態]
ある物質を対象として、生物の体内への取り込みから、体内への分布、代謝を経て排出までの過程のことをいいます。
[ハイスループットスクリーニング]
創薬工程の初期において、膨大な化合物ライブラリーの中から、有効性のある化合物を選抜する手法のことであり、一般的にロボットを用いて自動的かつ高速で評価されています。
[コラゲナーゼ灌流法]
コラーゲンを分解する酵素であるコラゲナーゼ溶液を動物の肝臓へ血脈から流し、肝臓外へ放出させる過程を継続させ、肝臓内のコラーゲンを分解することにより肝細胞を分散させ単離する方法であります。
[cDNA]
細胞内での蛋白質合成においてDNAの遺伝子として働く部分(情報)を人工的に合成したDNAであり、complementary DNA( 相補的DNA, cDNA)と呼ばれています。
[uPA]
ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA)は様々な蛋白質を溶かすことができる酵素の一つです。体内で凝固した血餅を溶解し除去する線溶系としての働きがよく知られています。
[SCID]
severe combined immune deficiency(重度複合型免疫不全)の略称です。免疫反応を司るリンパ球(T細胞、B細胞)を持たない病態のことをいいます。このことから、SCIDマウスは異種の細胞などを移植してもリンパ球や抗体などによる免疫反応が起こらず、異種細胞が生着することができます。
[ホスト動物]
移植における、臓器を提供する側をドナー動物といい、提供を受ける側をホスト動物、またはレシピエント動物といいます。
[トランスジェニックマウス]
遺伝子工学の手法を用いて、遺伝情報を変化させた遺伝子改変マウスのことをいいます。この手法により、通常のマウスが持っていない蛋白質をマウス体内で作らせたり、通常よりもある蛋白質を多く作らせたりすることにより、病態モデルマウスを作製したり、あるいは、ある特定の蛋白質の性質を調べるために利用されています。
[cDNA-uPA/SCIDマウス]
cDNA-uPA/SCIDマウスは、urokinase-type plasminogen activator cDNAトランスジェニックマウスであり肝障害を有し、さらにはSCIDマウスであるため免疫不全動物という特徴を持ちます。当社では、キメラマウス研究で一般的に利用されているThe Jackson Laboratory社(米国)のuPAトランスジェニックマウスに代わり、cDNA-uPAマウスを、公益財団法人東京都医学総合研究所、中外製薬株式会社との共同研究で開発し(国際特許出願済み)、これをホスト動物としてPXBマウスを生産しています。このホスト動物を利用することにより、PXBマウスは、より長期間、安定的にヒト化状態を維持できるという特徴があります。
[CRO]
Contract Research Organization(開発業務受託機関)とは、前臨床及び臨床試験等を製薬企業に代わり、受託する機関であります。